公開日: 2026.05.13 / 最終更新日: 2026.10.21

卸売のEC移行は並走で進める|既存取引を壊さない3群の分け方

卸売のEC移行を、FAX・電話受注を残したまま進める並走の手順を解説。年商8億の食品卸を例に、得意先を先行・順次・継続の3群に分ける基準、二重運用を抑える合流点の作り方、進み具合の確かめ方を示します。

既存取引の箱を載せたレーンと新しい注文のレーンが並んで右へ走り、一件も落とさない情景イラスト

たとえば、年商8億円の業務用食品卸を想定します。得意先は約120社。受注はFAXが6割、電話が3割、メールが1割です。受注担当は2名で、月末は請求書の突き合わせで残業が続いています。中小卸として、よく見られる姿です。

この会社がShopify B2BでのEC化を決めたとき、社長が最初に心配するのは「切り替えで既存の注文が落ちたらどうするか」です。飲食店の得意先から見ると、頼んだ食材が届かない日が1日あるだけで取引見直しの理由になります。そこで移行は、FAX・電話の窓口を残したままECを並走させ、得意先を先行・順次・継続の3群に分けて段階的に進めます。注文の入口が2つあっても、基幹システムに入る合流点を1か所にすれば、後工程は1本のまま運用できます。

失敗パターンは「切り替え日を決めた一斉移行」

最も危険なのは、「◯月1日からはECでお願いします」と全得意先へ一斉切り替えを求める計画です。この方式は、次の3つの理由で行き詰まります。

  • 得意先の準備速度は120社ばらばらで、切り替え日に間に合わない先が出てくる
  • 移行と同時にFAX窓口を閉じると、間に合わなかった先の注文が行き場を失う
  • 初日にトラブルが起きたとき、全取引が同時に影響を受け、戻す先もない

このため移行は、切り替えより並走で設計します。旧チャネル(FAX・電話)を生かしたまま新チャネル(EC)を開き、得意先ごとに移る速度を変えます。

並走設計の骨格:得意先を3つの群に分ける

想定の食品卸なら、120社を発注頻度とデジタル対応力で3群に分けます。分類は営業担当の肌感覚で構いません。精密に分けることより、早く着手することを優先します。

  • 先行群(10〜20社): 発注頻度が高く、関係が深く、メール発注に既に慣れている先。公開後1〜2か月でここだけを案内する
  • 順次群(60〜80社): 先行群の運用が安定してから、営業訪問のついでに個別案内する主力群
  • 継続群(20〜30社): 高齢の店主や発注が月1回程度の先。無理に移行させず、FAX・電話のままでよいと最初から決める

継続群は、最初から計画に入れます。「全社移行」を目標にすると、動かない2割のために案内コストが際限なく膨らみます。残るFAXはAI-OCRや受注代行入力で処理コストを下げると決めたほうが、全体の投資対効果は上がります。移行率もKPIにしません。目標は受注事務の工数削減で、入口がFAXでもECでも構わないからです。「何%がECに移ったか」を追い始めると、営業が継続群の説得に時間を取られ、計画が止まります。

得意先を先行群・順次群・継続群に分けて段階的に移行させるタイムラインの図
3群並走の移行タイムライン: FAX窓口は最後まで閉じない

並走期の実務:二重運用の負担をどう抑えるか

並走設計の弱点は、FAXとECの2系統を同時に扱う期間の負担です。対策は、受注の合流点を1か所にすることです。FAXで来てもECで来ても、最終的に同じ受注データの形で基幹システムに入るようにします。この合流点を最初に作れば、チャネルが2つあっても後工程(在庫引当・出荷・請求)は1本のままです。

想定の食品卸であれば、EC受注は自動で基幹に流し、FAX受注はAI-OCRで読み取って同じ形式に変換する構成が無理なく組めます。こうすると並走期は、入力が二重になる期間から、入力が段階的に自動化されていく期間に変わります。公開されている例では、業務用厨房器具と食器の卸である江部松商事が、FAXの注文書をAI-OCRで読み取って販売管理システムへ取り込み、入力・確認するデータの量と受注処理の作業時間がほぼ半減したとしています(LINE WORKSの導入事例)。継続群のFAXを残しても、入力の手間は減らせることを示す例です。

金額で見ると、この設計を選ぶ理由がはっきりします。想定企業の受注事務2名の人件費を、仮に1名あたり月25〜35万円と置くと、年600〜840万円の固定費になります。一斉切替でFAXを無理に閉じれば取引が落ちるリスクを負ううえ、継続群が残る以上、FAX対応はゼロになりません。並走とAI-OCRを組み合わせれば、取引を落とすリスクを抑えながら入力工数を段階的に削れます。取引は守り、工数は削るという2つの目的を、別々に設計するのが並走のやり方です。

並走期間に決めておく3つのこと

  • 合流点を1か所にする:FAXでもECでも、最終的に注文が集まる場所(基幹システムの受注テーブル)を1つに決める。ここが2か所あると、在庫の引当が二重になる
  • 重複注文の見つけ方を決める:同じ注文がFAXとECの両方から入ることは起こりうる。取引先コード+発注日+品番の組み合わせで検知する、といったルールを事前に決める
  • 並走の期限を切らない:期限を切ると、移行できない取引先に圧力をかけることになる。並走の終わりは期日で決めず、社内の処理時間とミス件数で判断する

移行の進み具合はEC経由比率で確かめる

並走移行の進み具合は、受注件数に占めるEC経由比率で見ます。得意先に目標値を課す用途には使わず、案内した得意先が使い始めたかを確かめる目安にとどめます。想定シナリオなら、公開3か月で2割、1年で5〜6割を一つの目安に置きます。比率の伸びが止まったら、得意先別の利用状況を見て「案内したが使われていない先」を特定し、営業が個別にフォローします。こうした地道な運用が、システムの機能以上に移行の成否を左右します。

まとめ:移行計画で避けたい3つの判断

  • FAXをゼロにする目標を置く。継続群は移らないものとして計画し、残るFAXはAI-OCRで読み取る
  • 切り替え日を決めて一斉に移す。FAX窓口は最後まで閉じず、先行群から順に広げる
  • 公開後の立ち上げ支援を計画から外す。営業が主要得意先の事務所で初回注文の操作に立ち会う、といった手間まで計画と予算に含める

並走設計を実装するときは、EC側の構築とFAX・電話受注のデータ化を1つのプロジェクトとして進めます。合流点(基幹システムへの登録形式)を決めてから両方を作らないと、同じ注文データが2つの形式で入ってきます。移行後はチャネル別の受注データが揃うため、EC経由比率や得意先別の動きを継続的に追えるようにもなります。

得意先がECに移らないときの対処は得意先がECに移行しない問題に、モールから自社ECへ移る場合の手順は楽天・AmazonからShopifyへの移行にまとめています。

FAXとECの注文をどこで合流させるかは、Shopify B2Bの受注データを基幹システムへどの形式で渡すかで決まります。awaiはその受け渡しの設計とShopify B2Bの構築を担い、公開後は得意先別の利用状況とEC経由比率を毎月集計して、案内したのに使われていない得意先を営業担当が追える一覧にします。

自社ECの「作り方」も「伸ばし方」も、30分の無料相談で一緒に整理します作り方・予算のかけ方・マーケの知見・広告運用のうち、どれか一つが欠けていても、良い商品は売上につながりません。現状のEC・SNS・顧客データをうかがい、どこから伴走を始めるべきかをその場でご案内します。

よくある質問

Q. 移行中に取引が止まりませんか?
A. 既存のFAX・電話受注を残したままECを並走させ、移れる得意先から段階的に移す設計にすれば、取引への影響は抑えられます。注意したいのは、どちらの経路で受けた注文も最終的に基幹システムの同じ場所に集まるようにすること(合流点を1か所にすること)です。ここが2か所あると、在庫の引当が二重になり、かえって事故が増えます。
Q. 既存の受注データは引き継げますか?
A. 得意先・商品・価格といったマスタは移行できます。移行設計で最も手間をかけるべきは、既存取引の条件(得意先別の掛率、最低ロット、締め支払い条件)を正確に写す作業です。ここに漏れがあると、EC経由の注文だけ価格や条件が違うという事態になり、信用の問題に発展します。移行前に、主要得意先の条件一覧を紙に出して突き合わせてください。
Q. 移行にはどのくらいの期間がかかりますか?
A. 規模と要件によりますが、本文で想定した年商8億円の食品卸なら、公開後1〜2か月は先行群に絞って案内し、EC経由比率は公開3か月で2割、1年で5〜6割を目安に置きます。先行群(10〜20社)の中でも、発注件数が多くWebに抵抗のない2〜3社から使い始めてもらい、手順が固まってから先行群の残りに案内します。一斉切替は避けてください。並走の期限は決めず、社内の処理時間とミス件数の推移を見ながら広げていきます。

関連記事

新着記事

自社ECの「作り方」も「伸ばし方」も、30分の無料相談で一緒に整理します

作り方・予算のかけ方・マーケの知見・広告運用のうち、どれか一つが欠けていても、良い商品は売上につながりません。初回無料・オンライン・強引な営業なし。

30分の無料相談を予約する
30分の無料相談を予約する

オンライン・初回無料