公開日: 2026.04.18 / 最終更新日: 2026.10.21

得意先がECに移行してくれない時の対処法|移行率をKPIにしない

得意先が受発注ECに移行してくれない時は、移行しない理由を4類型に分けて案内先を絞ります。型ごとの対応、移行を後押しする案内の仕方、FAXのまま受注処理を自動化する方法、移行率に代わるKPIを具体例つきで書きます。

紙のまま注文する得意先とEC側の担当者が離れた台地に立ち、間を点線の橋が結ぶ情景イラスト

受発注サイトを立ち上げても、使う得意先は全体の2割で、残りはFAXと電話のまま、という状態はよくあります。対処の要点は3つです。①移行しない理由を型に分け、Web発注の利点が伝わっていない得意先を選んで個別に案内します。②FAX・電話で届く注文はAI-OCRなどでデータ化し、社内の処理を自動化します。③成果を測るKPIを「移行率」から「受注1件あたりの処理コスト」に変えます。得意先の発注方法を変えられなくても、社内の受注事務は減らせます。

取り組みが止まる原因の多くは、移行率を成果の物差しにしていることにあります。移行率で成果を測ると起きる3つの誤解から見直し、そのあとで型ごとの対応と案内の具体策に進みます。

誤解1「全得意先が移行しないと投資が無駄になる」

無駄にはなりません。卸の取引構造は多くの場合、上位2割の得意先が売上の大半を占めます。仮に社数ベースの移行率が2割でも、それが発注頻度の高い得意先なら、処理件数ベースでは4割・5割の自動化になっている可能性があります。

投資判断の分母には、得意先の社数より、注文の処理件数と処理時間を置きます。受注事務の人件費は1名あたり月25〜35万円(一般的な目安)で、2名なら年600〜840万円の固定費です。成果として測るのは、この固定費のうち何割を減らせたかです。社数で測ると、効果が出ているのに失敗と判断してしまいます。

誤解2「移行しないのは得意先が頑固だから」

得意先の側から見れば当然の行動です。発注側にとって、仕入先のECサイトは「数ある仕入先の一つのために覚える新しい操作」にすぎません。先方には、手書きの発注書や基幹システムからのFAX自動送信といった発注フローがすでにあります。移行を求めることは、相手の業務を変えるコストを、こちらの都合で相手に負わせることになります。

そのため、案内文を送る、営業が説得する、といった働きかけでは動きません。動いてもらうには、在庫や納期がすぐ見える、発注履歴から再注文できる、といった発注側の利点を用意します。それでも動かない得意先は、FAX・電話のまま受ける条件で社内の仕組みを設計します。

移行率をKPIにした場合と1件あたり処理コストをKPIにした場合の設計の違いを対比した図
KPIを変えると打ち手が変わる。得意先を変えるのではなく、社内の処理を変える

誤解3「FAXが残っている=DXできていない」

FAXが残ることと、FAXを人が処理することは別問題です。受信したFAXをAI-OCRで読み取り、注文データに変換して基幹システムまで流す仕組みを作れば、得意先はFAXのまま、社内はデジタルという状態が成立します。入口が紙でも、処理がデータなら業務コストは削れます。

実例もあります。業務用厨房器具・食器の卸である江部松商事(新潟県燕市)は、FAXの発注書をAI-OCR(LINE WORKS OCR)で読み取り、販売管理システムの受注入力に取り込む仕組みを作りました。公表された導入事例では、受注入力担当者が入力・確認するデータの量がほぼ半減し、受注処理の作業時間もほぼ半減したとしています(LINE WORKSの導入事例)。得意先がFAXをやめたわけではありません。同事例では読み取り精度が100%ではない点にも触れており、成果は読み取り結果を人が確認・訂正する流れまで含めて設計した結果です。

「FAX全廃」を掲げて得意先との関係をこじらせると、事業としては高くつきます。長年の取引先へ発注手段の変更を迫ると、競合に乗り換えるきっかけを与えかねません。

移行率の代わりに見るKPI:1件あたり処理コスト

  • 受注1件を処理データ化するまでの所要時間(FAX・電話・EC別に計測)
  • 受注処理にかかる月間総時間と人件費換算額
  • 転記ミス・聞き間違いに起因するトラブル件数
  • EC発注のメリットを感じやすい得意先への個別移行提案数(割合でなく提案した数で数える)

このKPIなら、FAXで届く注文もECで届く注文も同じ物差しで測れます。移行する得意先の注文はECで受け、動かない得意先の注文はAI-OCRなどで自動処理して、入口を問わず処理コストを下げます。

具体的に数えてみます。受注1件の入力・確認に5分かかり、月1,000件なら月83時間です。時給2,000円で換算すると、月16.6万円が入力に使われています。毎月の定例では、移行した社数を数える代わりに、この16.6万円がいくら減ったかを確認します。

仕組みとしては、FAX・電話で届く注文をデータ化する経路と、Web発注の経路の両方を持ち、最終的に基幹で1本にまとめます。得意先の側には発注手段の選択肢を残し、社内の処理コストを下げる構成です。移行率が何%でも社内の効率化は進むため、得意先へ移行を迫る必要がなくなります。

移行しない得意先の4類型と対応

動かない得意先をひとくくりに「頑固」と片付けると、打ち手を間違えます。移行しない理由は4つの型に分かれ、型ごとに取るべき対応が違います。

  • デジタルに不慣れな型:発注担当が高齢、あるいはPC・スマホでの操作に抵抗がある。無理に移さず、FAX・電話のままAI-OCRなどで社内処理する対象にする
  • 既存フローが完成している型:先方の基幹システムから発注書が自動でFAX送信されるなど、変える動機が乏しい。相手のフローに合わせ、届く形式のまま取り込む設計が向く
  • 発注量が少ない型:たまにしか注文しないため、新しい操作を覚える気になれない。少額・低頻度なら移行を追わず、社内の処理コストを下げれば足りる
  • メリットが見えない型:Web発注の利点が伝わっていない層。在庫や納期がその場で分かる、発注履歴から再注文できるといった具体的な利点を示すと動くことがある

4類型のうち、営業の労力を割く価値があるのは、基本的に「メリットが見えない型」です。ほかの3つは説得のコストが見合わないため、移行を追うより社内のAI処理で吸収するほうが安く済みます。全社を一律に説得しようとすると、労力の大半が動かない相手に使われます。

移行してくれる得意先を増やす具体策

「メリットが見えない型」への案内は、次の5つです。どれも費用をかけずに始められます。

  • 案内の順序を決める:発注件数が多くWebに抵抗のない得意先、定番品の再注文が中心の得意先、特殊な条件が多い得意先、の順に声をかける
  • 並行期間を明示する:「FAX・電話も当面これまでどおり受け付けます」と最初に伝え、期限を切って強制しない
  • 案内は1枚にする:ログイン方法・注文手順・困ったときの連絡先の3点を載せた紙を、納品書や請求書に同封する
  • 最初の1件は営業が付き添う:電話をつないだまま1件注文してもらうと、2回目以降の操作への不安が減る
  • 自社のサイトで用意できる利点を具体的に示す:在庫と納期がその場で分かる、過去の注文から再注文できる、請求書や納品書をいつでもダウンロードできる、など

案内の結果は、移行した社数より、Web経由の受注件数と受注処理時間の変化で確認します。

社内の物差しを、営業にも浸透させる

KPIを「1件あたり処理コスト」に変えても、営業担当が今までどおり得意先ごとの移行社数で成果を語っていると、社内の空気は変わりません。報告の物差しを揃えることが、運用を定着させる出発点です。

定例会議で見る数字を「何社移ったか」から「処理コストがどれだけ下がったか」に置き換えると、営業の動き方も変わります。動かない得意先を追いかける時間が、利点が伝わっていない得意先への案内や、社内処理の改善に向かいます。

4類型を営業と共有すると、無理な移行提案が減ります。相手の型を見極めて声をかける営業と、全件に同じトークをする営業とでは、長期的に取引先との関係の保ちやすさが変わります。

まとめ

得意先がECへ移行しないときは、移行しない理由を4類型に分け、利点が伝わっていない得意先から順に案内します。残りの注文はFAX・電話のままデータ化し、社内処理を自動化します。成果は移行率の代わりに、受注1件あたりの処理コストで測ります。移行の進め方は卸売EC移行の並走設計、FAX注文のデータ化はFAX受注の自動化に手順があります。

利点が伝わっていない得意先に案内するとき、再注文や在庫・納期の表示といった見せられる機能があるかどうかで、話の通りやすさが変わります。awaiは、受発注サイトのこうした機能の設計と構築、公開後の保守運用、FAX・電話・Webの経路別に受注件数を追う分析までを担当します。

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よくある質問

Q. 得意先がECを使ってくれません。どうすればいいですか?
A. 使わない得意先が残ることを想定して設計してください。移行を強制せず、FAX・電話で届く注文はデータ化して吸収し、Web発注に移れる得意先から移せば、社内の処理コストは下がります。移行を条件にすると、取引を失う危険があります。発注方法を変えることは相手にとって業務の変更で、こちらの都合では動いてもらえません。
Q. 「移行率をKPIにしない」とはどういう意味ですか?
A. 何%の得意先がECに移ったかを目標に置くと、現場が数字を作るために取引先へ圧力をかける構図になります。本来の目的は受注事務の削減であり、注文の入口がECでもFAXでも構いません。見るべき指標は、受注1件あたりの処理時間、入力ミスの件数、そして担当者が不在でも処理が止まらないかどうかです。
Q. 全得意先を一斉に移すべきですか?
A. いいえ。移れる得意先から段階的に移し、残りはデータ化で吸収する併走のほうが、取引を失うおそれが小さく済みます。案内は、①発注件数が多くWebに抵抗のない得意先、②定番品の再注文が中心の得意先、③特殊な条件が多い得意先、の順で進めます。①が移った段階で受注件数の相当部分がWebに移ることが多く、効果が早く出ます。

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