公開日: 2026.06.15 / 最終更新日: 2026.10.21

取引先別の実質収益の出し方|儲かっていない得意先の見つけ方

取引先別の実質収益は、粗利から物流費・受注事務費・値引・返品対応費・資金負担を差し引いて出します。標準単価を使った概算の手順、3社の計算例、不採算の得意先が見つかった後の打ち手まで説明します。

長く伸びた売上の帯の上に小さな利益の塊が乗り、残りを配送費や値引きなど隠れコストの札が埋めている情景イラスト

取引先(得意先)別の実質収益は、得意先別の粗利から、物流費・受注事務費・値引やリベート・返品対応費・資金負担の5つを差し引いて出します。各コストは、配送1回あたり・受注1件あたりの標準単価を決め、年間の回数や件数を掛けた概算で十分です。売上上位10社から試算すると、半日ほどで儲かっていない得意先の候補が分かります。

損益計算書の粗利は「売上から仕入原価を引いた数字」で、配送費も、小口注文への対応工数も、返品処理も、入金を待つ間の資金負担も含みません。粗利率が同じでも、手離れの良い得意先と手のかかる得意先では、手元に残る利益がまったく違います。大口の得意先ほど値引率が深く、配送頻度が高く、特別対応が多いため、売上ランキングの上位に不採算先が紛れ込むことがよくあります。

粗利と「実質収益」の差はどこで生まれるか

物流のコスト:配送頻度と小口化

同じ月商の得意先でも、月2回のまとめ納品と、毎日の小口納品では配送コストがまったく違います。1回の配送にかかる費用の目安(自社便なら人件費+車両費、外部委託なら運賃)に年間配送回数を掛ければ、得意先ごとの物流負担の差が分かります。

試算してみます。1回の配送コストを仮に3,000円とすると、毎日納品(月25回)の得意先は月7.5万円・年90万円、月2回の得意先は月6,000円・年7.2万円。同じ月商でも、配送費だけで年80万円以上の差がつきます。この差は会計上の粗利には一切表れません。

受注・事務のコスト:注文の手間は一律ではない

FAXや電話での注文は、受けるたびに転記・確認の人手がかかります。注文1件あたりの処理時間に担当者の時間単価と件数を掛けると、得意先別の事務コストの概算が出ます。細かい注文が多く、変更・キャンセルが頻発する得意先は、この項目が重くなります。

取引条件のコスト:値引・返品・支払サイト

リベートや特別値引は粗利から直接削られますが、得意先別に集計されていないことが多い項目です。また入金までの期間(支払サイト)が長い得意先については、その間の運転資金を自社が立て替えているのと同じです。売掛金残高に借入金利相当を掛けると、資金負担もコストとして数字になります。たとえば売掛金の平均残高が500万円あり、借入金利を年3%とみると、年15万円前後を自社が肩代わりしている計算になります。

実質収益の出し方:精密さより「桁が合う」概算で

得意先別の粗利から、物流費・受注事務費・値引やリベート・返品対応費・資金負担を差し引いた額が実質収益です。精密な原価計算は目指しません。目的は会計監査より、「どの得意先との取引条件を見直すか」の優先順位づけにあるためです。手順は次の5つです。

  • 得意先別の年間粗利を販売管理システムから出す
  • 配送1回・受注1件・返品1件あたりの標準単価を決める
  • 得意先別に、年間の配送回数・受注件数・返品件数を数える
  • 値引・リベートの年額と、売掛金の平均残高×借入金利を得意先別に出す
  • 粗利から2〜4のコストを差し引き、実質収益の低い順に並べる
得意先別の粗利から物流費・受注事務費・値引き・資金負担を段階的に差し引き、実質収益に至るウォーターフォール型の図解
粗利から取引コストを段階的に差し引くと、得意先ごとの実際の採算が分かる

計算例:3社の実質収益を並べる

仮の数値で3社を比べます。標準単価は配送1回3,000円、受注1件がFAX2,000円・電話2,500円・Web500円、返品1件5,000円とし、年間の回数や件数を掛けています。配送1回につき注文1件とみなし、資金負担は売掛金の平均残高に年3%を掛けた額です。

項目(年額・千円)A社:売上上位・毎日納品・FAX注文B社:中堅・月2回納品・Web注文C社:小口・週3回納品・電話注文
粗利6,0003,0001,500
物流費90072432
受注事務費60012360
値引・リベート1,800300450
返品対応費30030300
資金負担3006075
実質収益2,1002,526−117

粗利ではA社がB社の2倍でも、実質収益ではB社が上回ります。C社は粗利が出ていても、実質収益はマイナスです。A社は値引・リベート、C社は配送頻度・電話注文・返品が主な原因だと分かるため、見直す条件も得意先ごとに決められます。

実質収益が分かった後の打ち手

実質収益がマイナスの得意先が見つかっても、取引停止は最後の手段です。コストの発生源ごとに対応策があり、多くの場合は取引を続けたまま採算を改善できます。売上の大きさより手元に残る利益で取引を評価すると、打ち手は次のように変わります。

  • 配送回数を減らす:納品をまとめる、最低注文金額や最低ロットを設ける
  • 受注の手間を減らす:注文方法をFAXや電話からWebに切り替える
  • 取引条件を改定する:価格や支払サイトを、実質収益の数字を根拠に交渉する
  • 値引きの線引きを持つ:どこまで下げると赤字になるかを得意先別に把握する
  • 営業の時間を利益の残る得意先へ寄せる:B社のような中堅先を増やす

実務チェックリスト

  • 得意先別の粗利(売上ではなく)が毎月出せる状態か
  • 得意先別の年間配送回数・受注件数を集計できるか
  • 値引・リベート・返品が得意先別に紐づいているか
  • 得意先別の売掛金残高と回収サイトを一覧できるか
  • 売上上位10社について、実質収益の概算を一度でも出したことがあるか

このチェックリストで手が止まるのは、多くの場合データが販売管理・会計・配送記録・Excelに散らばっているためです。全社分を一度に整えようとせず、売上上位10社に絞って手作業で実質収益を出してみてください。10社分なら半日で終わります。得意先の間の差が大きければ、毎月見る仕組みに投資するかどうかの判断材料になります。受注の事務コストが重い場合は、採算の交渉より、受注処理そのものを減らすほうが成果の出ることもあります。

商品別の採算は売れ筋・死に筋分析で、月次の数字を早くそろえる方法は月次決算を速くする方法で確かめられます。

実質収益を、社内にどう定着させるか

一度きりの試算で終わらせず、得意先別の実質収益を毎期見るには、集計の手間を最初から小さく設計します。毎回ゼロから配送回数や受注件数を数え直すようでは担当者の負担が重く、次第に更新されなくなります。

標準単価をあらかじめ決め、月次の実績データを当てはめれば概算が出る状態にすると、四半期ごとの見直しも短時間で終わります。集計表やデータ連携の準備は最初の1回にまとめて行い、以降の運用を軽くします。

実質収益の算出を経理の中で閉じず、営業担当にも数字の成り立ちを共有します。値引きや納品条件を交渉する場面で、営業担当が数字を根拠に提案できるようになります。

上位10社の試算を毎月の数字に広げるには、販売管理・会計・配送記録に分かれたデータをつなぐ作業が要ります。awaiが受け持つのは、このデータの接続と、得意先別の実質収益を毎月見られる集計の設計です。経営データを横断して見る仕組みについては、awai Compassのサービス詳細に説明があります。

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よくある質問

Q. 得意先別の実質収益は、どのくらいの頻度で見直すべきですか?
A. 本格的な棚卸しは年1〜2回で十分です。取引条件や配送頻度は頻繁には変わらないためです。ただし得意先別の粗利と売掛金残高は毎月見える状態にし、値引きの拡大や回収遅延といった悪化のサインを早めに捉えてください。
Q. 取引コストの単価(配送1回あたりなど)はどう決めればいいですか?
A. 厳密な原価計算は不要です。たとえば自社便なら、配送に関わる月間の人件費と車両費の合計を月間配送回数で割れば、1回あたりの標準単価が出ます。受注事務も同様に、担当者の時間単価に1件あたりの処理時間を掛ければ概算できます。桁が合っていれば意思決定には使えます。
Q. 実質収益がマイナスの得意先に、条件変更をどう切り出せばいいですか?
A. 値上げ単体で切り出すより、選択肢を示す形が進めやすいです。たとえば「現在の毎日納品を続ける場合は価格を見直させていただき、週2回のまとめ納品なら現行価格を維持します」のように、相手が条件を選べる提案にすると、交渉より相談として受け止めてもらえます。

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