公開日: 2026.04.04 / 最終更新日: 2026.10.21

中小企業の受発注システム選び方|SaaSで足りる会社の分岐点

受発注システムはSaaSで足りるのか、個別設計が要るのか。FAX・電話の受注比率、取引先ごとの例外、基幹連携の深さの3問で分かれ目を示し、選択肢別のコスト構造と発注前に数えておく3つの数字も挙げます。

SaaSと自社開発の二方向を指す道標の前に判断材料のチェック表が立つ、選択を見比べる情景イラスト

年商8億円の食品卸を例に考えます。取引先は約120社、受注はFAXが6割・電話が3割・残りがメールで、事務2名が毎日その入力をしています。仮に1名あたりの人件費を月25〜35万円とすると、2名で年600〜840万円の固定費です。採用が難しい中で1名でも欠ければ、その週の受注処理が止まるおそれもあります。

受発注システムの候補にはWeb受発注SaaS・AI-OCR・EDI・個別開発があり、どれが合うかは機能の多さより自社の受注の中身で決まります。結論から言うと、FAX・電話の受注比率が低く、取引先ごとの例外が少なく、基幹システムとの深い連携も要らない会社はSaaSで足ります。この3条件のうち2つ以上が当てはまらない会社は、SaaSを部品として使いながらFAX・電話の読み取りや基幹連携を設計する併用型を選ぶと、FAXの取引先を残したまま事務を減らせます。

「受注が大変」の中身は、性質の違う3つの問題

受注が大変という一言を分解すると、解き方の違う3つの問題が混ざっています。3つを区別せずに道具を選ぶと、解きたい問題と道具の得意分野がずれます。

  • 入力の問題:FAX・電話の内容を基幹システムへ人が手で転記している
  • チャネルの問題:取引先ごとに発注手段がバラバラで一元化できない
  • 接続の問題:受注データが在庫・請求・売上分析とつながっていない

受発注SaaSが直接解くのは主に2つ目のチャネルの問題です。取引先がWebから発注してくれれば、その分の入力とチャネルの問題は同時に片づきます。残る課題は、ほかの取引先がWebに移ってくれるかどうかです。ここを楽観すると、システムを入れてもFAXが減らず、入力作業も残ります。

選択肢別のコスト構造:SaaS・Shopify B2B・個別設計

機能の前に費用の桁を掴んでおくと、話が具体的になります。おおまかな相場観は次のとおりです(金額は各サービスの公開情報にもとづく目安で、最新は各社の料金をご確認ください)。

  • B2B受発注SaaS:Bカートが月9,800円〜、CO-NECTは無料プランあり、スマレジEC・B2B(旧・楽楽B2B)は料金を問い合わせで案内。初期費用はサービスごとに異なる
  • Shopify B2B:2026年に会社アカウント・卸価格・掛け払いが通常プランで解放。プラットフォーム費は月数千円〜数万円、構築費は要件次第
  • AI-OCR併用・個別設計:FAX・電話をデータ化して基幹まで繋ぐと、初期は数百万円規模。見積もりは人月(作業者1人の1か月分の工数)単価で出るのが通例

費用の数字で比べると、月1万円前後のSaaSで十分に見えます。ただ、安さで選んでも、Webに移らずFAX・電話で発注を続ける取引先(想定企業なら約90社)が残れば、事務は減りません。SaaSと従来の受注処理を並行して回すことになり、二重管理で手間が増えることもあります。比べるべきは月額の大小ではなく、削減できる事務コスト(この会社なら年600〜840万円の一部)に対して投資が見合うかどうかです。

AI-OCRは「入れれば減る」わけではない

FAX・電話を残したまま入力を自動化する手段が、AI-OCR(と音声認識)です。活字のFAXは高い精度で読めますが、手書きやかすれた注文書では精度が落ちます。そのため実務では、AIが高い確信度で読めた項目は自動でデータ化し、迷った項目だけ人が確認するHuman-in-the-loopの設計にします。全件を目視で確認する運用に比べ、人が見る件数を絞り込めます。

公開されている事例もあります。業務用厨房器具・食器の卸である江部松商事は、FAXの発注書をLINE WORKS OCRで読み取る仕組みを販売管理システムに組み込み、受注処理の作業時間がほぼ半減したと公表しています(LINE WORKSの導入事例)。基本の仕組みに約3か月、実際の受注を想定した検証と修正にさらに約3か月をかけており、ツールの導入と同時に効果が出たわけではありません。精度は自社の帳票の書式や手書きの割合で変わるため、導入前に実際の注文書でテストしてください。帳票を使った確かめ方はAI-OCRの精度と検証手順に手順があります。

3問で確かめる、SaaSで足りる会社と足りない会社

自社がSaaSで足りるのか併用設計が要るのかは、次の3問でおおよそ分かります。

  • Q1. FAX・電話の受注比率は5割を超えているか? → YESならSaaS単体では足りない
  • Q2. 取引先ごとの例外(特売単価・リベート・便ごとの締め時間)が多いか? → YESなら個別設計寄り
  • Q3. 在庫引当・請求・与信まで自動でつなぎたいか? → YESならAPI連携の設計が必要

YESが1つもなければ、SaaS単体で受注事務を減らせます。YESが1つなら、SaaSを軸にその1点を補います(Q1ならAI-OCRの追加、Q2なら取引先別の単価や締め時間を設定できるサービスの選定、Q3ならAPI連携の追加)。2つ以上YESなら、SaaSを部品として使いながら全体を設計する併用型が合います。想定した食品卸は3問ともYESなので、併用型に当たります。

受発注のFAX・電話比率や帳票の癖、基幹連携の深さという3つの問いからSaaS寄りか個別設計寄りかへ分岐し、多くの卸が併用型に着地する判断の流れを示した図
3つの問いで方向性が決まる。多くの卸は最終的に「併用型」に着地する

発注前に、自社で数えておくべき3つの数字

相見積もりの前に次の3つを実測すれば、各社の見積もりを同じ条件で比べられます。

  • FAX・電話の受注比率:感覚ではなく1週間分を数える
  • Web発注に移れそうな取引先の数:担当者の年齢層やITへの慣れから、無理のない数で見積もる
  • 例外取引の割合:標準ルールで表現できない取引が全体の何%か

見積もりを依頼するときは、この数字を渡したうえで「SaaSで足りるか、どこを追加で設計するか」の見立てを最初に聞いてください。見立ての根拠を数字で説明できるかどうかで、提案の妥当性を判断できます。

決裁の前に確認したい3つの注意点

システムの機能とは別に、導入の成否を分ける判断が3つあります。

  • FAXをゼロにする前提で計画しない。得意先は発注方法を簡単には変えず、移行を強制すると取引が離れるおそれがある。FAXは残したまま、AI-OCRで読み取って取り込む設計にする
  • 補助金の対象かどうかでツールを選ばない。EC制作は対象外とされることが多く、受発注ソフトは対象になり得るが、補助金の要件に業務を合わせると使いにくい仕組みが残る。最新の公募要領は確認したうえで、ツールは業務から選ぶ
  • Web発注への移行率をKPIにしない。目標は受注事務の削減で、入口がFAXでもWebでも構わない。移行率を追うと、営業や事務が取引先へ移行を無理に求めることになり、取り組みが止まりやすい

結論:SaaSか個別開発かの二者択一で考えない

受発注システムは、SaaSか個別開発かのどちらか一方に決める必要はありません。Web発注に移れる取引先はSaaSやShopify B2Bへ、残るFAX・電話はAI-OCRと音声認識で取り込み、両方のデータを基幹システムに一本化します。チャネルごとに合う道具を割り当て、データの出口をそろえる考え方です。想定企業なら、移行できそうな30社はSaaSへ、残る90社はAIで読み取る形になります。

ツールを比べる前に、2つを確かめます。1つは実際の注文書を使った読み取り精度、もう1つは自社の例外取引がどれだけあるか(標準機能への適合度)です。この2つを数字で出せば、SaaSで足りるか併用が要るかが決まります。ツールを選んだ後で例外取引に気づくと、追加開発をするか運用で妥協するかを迫られます。

SaaSの候補を絞る段階ではBカートとShopify B2Bの比較が、FAXの読み取りを設計する段階ではFAX受注の自動化が次の判断材料になります。電話受注は、復唱の徹底やベテラン配置だけでは聞き間違いを減らせないため、記録が残る形への変え方を電話受注の聞き間違いをなくす方法|復唱で消えない理由と対策に書きました。補助金を使う場合の申請の建付けとスケジュールは受発注のデジタル化に補助金は使えるか|対象条件と申請の進め方にあります。

1週間分の注文書から受注比率と例外取引の割合を数え、SaaSで足りるか併用型が要るかを見立てる作業は、ツールや発注先を決める前の段階からawaiが手伝います。

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よくある質問

Q. 月1万円のSaaSと数百万円の個別設計、何が違うのですか?
A. SaaSは取引先がWebから発注してくれる受け皿で、FAX・電話は範囲外です。個別設計はFAX・電話のAI自動化や基幹システムとの深い連携まで含みます。FAX比率が高い会社では、SaaSを導入しても事務は減らず、二重管理でかえって手間が増えることがあります。
Q. まず何を準備して相談すればいいですか?
A. FAX・電話の受注比率、Web発注に移れそうな取引先の数、例外取引(特売単価やリベート等)の割合の3つを実測してから相談すると、見積もりの精度が上がります。数字をもとにSaaSで足りるかを判断してもらえば、必要以上の構築を避けられます。
Q. 補助金を使って導入できますか?
A. ECサイトの新規制作は原則対象外ですが、受発注ソフトや業務効率化ツールは対象になり得ます。ただし補助金の型に業務を合わせると失敗しがちです。道具は業務から選び、使える補助金があれば活用する順番が安全です。申請する年度の公募要領で対象経費を確認してください。

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