公開日: 2026.09.24 / 最終更新日: 2026.09.24

EC顧客リストの活用法|名寄せの手順と最初に切る3つの区分

自社ECにたまった顧客リストを、ツールを入れる前に手元のデータで活かす手順を解説。注文データを1件の顧客にまとめる名寄せの進め方と注意点、最初に切る3つの区分、件数が少ないうちの見方、案内を出す前の個人情報の扱いまで示します。

机に置かれた引き出し箱に名簿カードがぎっしり詰まり、仕切りのタブが3か所で立ち上がっていて、取り出したカードを手前の3つの山に仕分ける手が伸びている情景イラスト

自社ECを動かし始めて半年ほど経つと、注文が積み上がるにつれて「この顧客データを何かに使えないか」という話が社内から出てきます。ところが管理画面を開くと、並んでいるのは注文の一覧であって、顧客の一覧ではありません。同じ人が別のメールアドレスで2回買っていたり、会社名の表記が「(株)」と「株式会社」で揺れていたり、電話で受けた注文は表計算にしか控えていなかったりします。手が止まるのはこの段階です。

手順は、①顧客の情報がどこに何件あるかを棚卸しする、②メールアドレスなどの軸を1つ決めて名寄せする、③初回のみ・再購入あり・離れているの3区分に割る、④区分ごとに内容の違う案内を1通ずつ出して反応の差を見る、の4段階です。4段階とも、CRM(顧客管理。顧客の情報とやり取りの履歴をひとまとめにして扱う考え方と、その道具)のツールを入れる前に、注文データの書き出しと表計算で進められます。案内を出す前には、取得したときに伝えた利用目的とデータの置き場所を確かめます。

顧客リストとは「名前の一覧」ではなく「連絡が取れて、区別できる状態」

顧客リストは、名前と連絡先が並んだ表を指して使われることが多い言葉です。案内を出して反応を見る段になると、表が並んでいる状態では足りません。使える顧客リストとは、次の3つが揃った状態を指します。

  • 1件が1人(または1社)にまとまっている:同じ相手が2行、3行に分かれていない。分かれていると、同じ案内が同じ人に複数回届き、件数も実態より多く見える
  • 連絡が取れる手段が付いている:配信を受け取ってよいという意思表示があるメールアドレスやLINE、あるいは営業担当が連絡できる電話番号。届かない連絡先は、リストの中では0件と同じ
  • 区別できる情報が付いている:初回の購入日、購入回数、直近の購入日、買った商品。この3〜4項目があれば、あとで説明する区分が切れる

注意したいのは、この3つが揃っていない状態でツールを入れても、出てくる結果は変わらない点です。配信ツールもCRMツールも、渡されたデータをそのまま集計して表示します。同じ人が3行に分かれていれば、ツールの画面にも3人として表示されます。ツールの検討は、手元のデータが上の状態になってからでも遅くありません。反対に、ここまで済んでいれば、あとからどのツールを選んでも取り込みに困りません。

まず棚卸しする|顧客の情報が、どこに何件あるか

最初の作業は、集めることでも統合することでもなく、どこに何が入っているかを1枚に書き出す棚卸しです。少人数の体制では、顧客の情報は最初から一か所にはありません。よくある置き場所は次のとおりです。

  • ECカートの注文データ:注文単位で並ぶ。顧客単位の一覧が別にあるか、CSV(表計算で開ける書き出し形式)で出せるかを確認する
  • メルマガ・LINEの配信先:配信ツール側にしかない連絡先がある。ECで買っていない登録者も含まれる
  • 電話・メール・FAXで受けた注文の控え:担当者の表計算やメールの受信箱にしか残っていないことがある
  • 名刺・展示会で受け取った連絡先:取得したときの経緯がECの購入者とは違うため、後述のとおり扱いを分けて考える
  • 問い合わせフォームの送信内容:購入前の見込み客が含まれる。購入者リストとは別に置く

棚卸しで書き出すのは、置き場所・おおよその件数・入っている項目(氏名、会社名、メールアドレス、電話番号、購入日、金額など)・書き出せる形式の4つです。この段階で全部を1つのファイルに統合しようとすると、数日かかって途中で止まります。全体像を1枚にまとめ、どこから手を付けるかを決める材料にします。件数が最も多く、購入という事実が紐づいているECカートの注文データが、たいていの場合は出発点になります。

名寄せ|同じ相手を1件にまとめるときの注意点

名寄せとは、別々の行に分かれている同じ相手を、1件の顧客としてまとめる作業を指します。手を付ける前に、何を軸にまとめるかを1つに決めます。メールアドレス、電話番号、会員IDのいずれかが候補になりますが、ゲスト購入(会員登録せずに買える仕組み)を許している自社ECでは、会員IDが付かない注文が混ざるため、メールアドレスを軸にするのが現実的です。取引先の法人が相手で、担当者が入れ替わる商材なら、会社名と電話番号を軸にしたほうが実態に合うこともあります。

軸を決めて手を動かすと、次のような問題に当たります。少人数の運営で起きやすい順に並べます。

  • 表記の揺れで別人になる:大文字と小文字、全角と半角、前後に入った空白、ハイフンの有無。全部を小文字・半角に揃え、空白を落としてから突き合わせる。この前処理で重複の多くが拾える
  • 会社の代表アドレスに複数人がぶら下がる:info@ や order@ といった共通のアドレスから、複数の担当者が別々に注文していることがある。ここを機械的に1件へまとめると、実際には別々の部署だった注文が1人の購入履歴として積み上がり、実態と合わなくなる
  • 同じ法人の部署違い・拠点違い:本社と支店、営業部と資材部。会社としては1社でも、届け先も決裁も別。社名でまとめると、片方にしか届かない案内を出してしまう
  • ゲスト購入で毎回アドレスが違う:同じ人が携帯のアドレスと会社のアドレスを使い分けている場合、メールアドレス軸では別人になる。氏名と電話番号、届け先住所が一致する行を、目視で拾う対象として別に出す
  • 住所と氏名の表記揺れ:番地の「1-2-3」と「一丁目2番3号」、ビル名の省略、旧姓。突き合わせの補助には使えるが、これ単独で同一人と判断するのは避ける
  • まとめすぎのほうが害が大きい:別人を1件にまとめると、他人の購入履歴をもとにした案内が届く。迷ったらまとめないのが安全側の判断

作業の進め方として、元のデータは書き換えないでください。注文データをCSVで書き出したコピーの右端に「統合ID」という列を1つ足し、同じ相手と判断した行に同じ番号を入れていきます。この形なら、判断を間違えたときに番号を直せば戻せます。あわせて、どういう基準でまとめたか(たとえば「代表アドレスは氏名が違えば別件とする」)を数行のメモに残すと、次に別の担当者が触るときに同じ基準を再現できます。

名寄せは100%を目指す作業ではありません。購入金額や購入回数の多い順に並べ替え、上から数十件を丁寧に確認すれば、区分を切るには十分です。残りは、案内を出したあとに「同じ人に2通届いた」と分かった時点で直していけば構いません。目的は完璧な1本のリストより、次の一手を選べる状態を作ることにあります。

最初に切る区分は3つだけ|初回のみ・再購入あり・離れている

名寄せしたリストに「初回購入日」「購入回数」「直近の購入日」の3項目が付いたら、区分を切ります。切るのは次の3つで十分です。RFM分析(最終購入日・購入頻度・購入金額の3つの軸で顧客をランク分けする手法)のように軸を増やす方法もありますが、区分が10も20もある状態は、少人数の体制では「どこから手を付けるか決められない」状態と同じです。はじめは3つに割り、それぞれに1つずつ手を打てるようにします。

注文データを名寄せして1件の顧客にまとめ、そこから初回のみ・再購入あり・一定期間離れているの3つの区分へ振り分ける分類図。各区分の数え方と、最初に出す案内の内容を1つずつ並べている
区分数え方この区分で見ること最初に出す案内
初回のみ購入回数が1回で、購入から購入サイクルの2倍が経っていない何を買って、どの入口から来たか買った商品の使い方・組み合わせて使う商品の案内
再購入あり購入回数が2回以上で、直近の購入から購入サイクルの2倍が経っていない2回目までの日数と、買われている商品の組み合わせ新商品や入荷の先行案内、まとめ買い・定期の選択肢
一定期間離れている直近の購入から、自社の購入サイクルの2倍以上が経過離れる直前に何を買っていたか在庫・再入荷・季節の案内など、思い出すきっかけ
最初に切る3つの区分と、それぞれの数え方・最初の使い道

「一定期間離れている」の線引きに使う購入サイクルは、他社の平均を使わず、自社の数字から決めます。再購入ありの顧客について、1回目から2回目までの日数を並べ、真ん中あたりの日数を自社のサイクルとみなします。たとえばそれが60日なら、120日以上動きのない顧客を「離れている」に入れます。消耗品なら短く、耐久性のある商材なら長くなるため、この数字は商材ごとに変わります。カテゴリが大きく違う商品を扱っているなら、カテゴリごとに分けて出したほうが実態に合います。

最初のうちは、区分をこの3つから増やしません。金額帯や購入商品でさらに割りたくなりますが、区分を増やすほど1つあたりの件数が減り、反応の違いが読み取れなくなります。3つで運用してみて、どれかの件数が大きくなりすぎたとき(たとえば初回購入の顧客が全体の8割を占める状態)に、その中をもう一段割ります。

件数が少ないうちは、割合より件数と実名で見る

顧客が数十件から数百件という段階では、割合の指標は判断材料になりません。20件のうち1件が動くと5ポイント動いてしまうため、施策の効果なのか偶然なのかを区別できないからです。この段階で見るのは、3つの区分それぞれの件数と、その中身です。月に1回、同じタイミングで3区分の件数を数え、前月の数字の横に並べて書き足します。並べて3〜4か月分たまると、どの区分が増えているのかが目で分かります。

数字と同じくらい価値があるのが、実名で中身を見る作業です。「再購入あり」に入った顧客を10件選んで開き、何を買ったか、1回目と2回目に何日空いたか、どの入口から来たか、同梱物やメールを受け取っているかを1件ずつ見ます。少人数の運営では、この10件から得られる示唆のほうが、集計結果より具体的です。「2回目はほぼ同じ商品の買い足し」「最初の注文が少量で、2回目からロットが上がる」といった共通点が見えたら、それがそのままリストの使い道になります。

なお、ここで出した区分ごとの件数から、リピート率という指標を計算して改善の施策を組み立てる進め方もあります。その計算方法と、施策に着手する順番はECのリピート率の平均と上げ方|計算方法と最初にやる施策の順番にあります。

最初の使い道は、区分ごとに1通ずつ出してみること

整えたリストの最初の使い道は、区分ごとに内容の違う案内を1通ずつ出してみることです。目的は売上より、区分の切り方が実態と合っているかを確かめることにあります。同じ案内を全員に一斉に送ってしまうと、この確認ができません。

  • 初回のみの区分へ:買った商品の使い方や手入れの方法、あわせて使う商品。売り込みより、届いた商品を使いこなしてもらう内容のほうが開かれやすい
  • 再購入ありの区分へ:新商品や再入荷の先行案内、まとめ買いや定期購入の選択肢。継続して買っている相手なので、次の購入を楽にする情報が向く
  • 離れている区分へ:季節や在庫の事情など、いま連絡する理由が分かる内容。長く間が空いた相手ほど、唐突な案内は反応が落ちる

送る手段は、いま持っているもので構いません。メールで送るなら件名と配信時間の決め方をECメルマガ開封率の平均と上げ方|件名と配信時間の見直し方に、LINEで送るなら友だち集めと配信設計をLINE公式アカウントのEC活用|友だち集め・配信設計・費用にまとめています。取引先が相手で件数が数十件なら、営業担当が個別にメールを書くほうが早いこともあります。

出したあとに見るのは、区分ごとの反応の差です。開封された件数、サイトへ来た件数、注文につながった件数を、区分ごとに分けて記録します。3つの区分のあいだで差が出れば、区分の切り方が実態を捉えている証拠です。差がまったく出ない場合は、区分の切り方を疑う前に、案内の中身が3つとも同じ意味になっていないかを確かめます。なお、購入直前で止まった人への働きかけはリストの活用とは別の話で、カゴ落ち対策|リカバリーメールの配信タイミングと効果の測り方で扱っています。

案内を出す前に確認する|個人情報の取り扱い

顧客リストを販促に使い始める前に、個人情報の取り扱いを一度確認します。個人情報保護委員会が公開している「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」では、利用目的の特定、利用目的による制限、利用目的の通知等、安全管理措置、第三者提供の制限、保有個人データの開示といった項目が定められています。自社ECの担当者が事前に確認したい観点は次のとおりです。個別のケースで結論が変わる領域のため、断定的な判断は避け、公式の情報と自社の記載内容を突き合わせてください。

  • 取得したときに伝えた利用目的の範囲に収まっているか:自社のプライバシーポリシーや注文画面で、どう書いているかを読み直す。「商品の発送と連絡のため」と書かれていて販促に触れていない場合、販促の案内がその範囲に収まるかは、記載の仕方次第で変わる
  • 取得の経緯が違うものを混ぜていないか:ECで購入した人、問い合わせフォームから来た人、展示会で名刺を交換した人は、それぞれ伝えた目的が異なる。名寄せで1本にまとめるときも、取得の経緯が分かる印を残せば、あとで扱いを分けられる
  • 外部のツールやサービスへ渡すことになっていないか:配信ツールや分析ツールに顧客データを預けることは、一般に委託にあたる扱いとされる。委託先の管理や、海外にある事業者へ提供する場合の扱いは、個人情報保護委員会のガイドラインで定められている
  • 本人からの求めに応じられる体制があるか:保有している個人データの開示や、利用の停止を本人から求められたときに、誰が受け付け、どう対応するかを決める
  • データの置き場所が管理されているか:名寄せのために書き出したCSVが個人の端末や共有フォルダに残ったままになっていないか、共有リンクが外部に開いていないか、退職した担当者のアクセス権が残っていないかを確認する

名寄せのために書き出したファイルには、扱いのルールを1枚付けます。誰が触ってよいか、どこに置くか、いつ消すか。この3点が決まっていれば、少人数の体制でも運用が崩れにくくなります。判断に迷う点や、自社の記載を書き換える必要があるかどうかは、個人情報保護委員会の公開しているガイドラインやQ&Aを参照し、必要に応じて専門家に確認してください。

まとめ:整えて、3つに割って、1通ずつ出す

顧客リストの活用は、ツール選びより前に、手元のデータを整えるところから始まります。どこに何件あるかを棚卸しし、軸を1つ決めて名寄せし、3つの区分に割ります。件数が少ないうちは件数と実名で中身を見て、区分ごとに内容の違う案内を1通ずつ出して反応の差を確かめます。そして案内を出す前に、取得したときに伝えた利用目的とデータの置き場所を確認します。この一巡を終えたあとであれば、CRMツールや配信ツールを検討するときにも、何を任せたいのかを自分の言葉で説明できる状態になっています。

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よくある質問

Q. 顧客リストの活用は、CRMツールを入れないと始められませんか?
A. 始められます。必要なのは、注文データをCSVで書き出して表計算で開き、同じ相手を1件にまとめて、初回購入日・購入回数・直近の購入日の3項目を付けることです。ツールは、渡されたデータをそのまま集計して表示する道具なので、元のデータが整っていなければ表示される結果も変わりません。手元で3つの区分に割り、区分ごとに案内を出して反応の差を見たうえで検討すると、何を任せたいのかが具体的になります。
Q. 名寄せは、どの項目を軸にすればよいですか?
A. ゲスト購入を許している自社ECでは、会員IDが付かない注文が混ざるため、メールアドレスを軸にするのが現実的です。ただし、取引先の法人が相手で担当者が入れ替わる商材では、会社名と電話番号を軸にしたほうが実態に合うことがあります。どちらの場合も、まず全体を小文字・半角に揃え、前後の空白を落としてから突き合わせてください。この前処理だけで重複の多くが拾えます。
Q. 顧客が100件ほどしかありませんが、区分に分ける意味はありますか?
A. あります。件数が少ないほど、割合の指標が偶然で振れてしまうため、区分ごとの件数と中身を見るほうが判断材料になります。100件であれば、3つの区分に割り、再購入ありの顧客を実名で10件開いて、何を買ったか、何日空いたか、どの入口から来たかを確かめるところまで手作業でできます。件数が少ない時期は、集計より中身を読む作業のほうが得られるものが多い段階です。
Q. 「離れている顧客」は、何か月で線を引けばよいですか?
A. 他社の目安を当てはめず、自社の購入サイクルから決めます。再購入のある顧客について1回目から2回目までの日数を並べ、真ん中あたりの日数を自社のサイクルとみなし、その2倍以上動きのない顧客を「離れている」に入れる、という決め方が扱いやすい方法です。消耗品なら短く、耐久性のある商材なら長くなるため、カテゴリが大きく違う商品を扱っている場合は、カテゴリごとに分けて出してください。
Q. 名刺交換で受け取った連絡先を、自社ECの案内に使ってもよいですか?
A. 取得したときに伝えた利用目的の範囲に収まっているかどうかで扱いが変わるため、一律には判断できません。個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)では、利用目的の特定や利用目的による制限が定められています。自社のプライバシーポリシーや、名刺を受け取った場面での説明がどうなっているかを読み直し、購入者のリストとは取得の経緯が分かるように印を残して管理してください。判断に迷う場合は、公式の公開情報を確認したうえで専門家にご相談ください。
Q. 名寄せは、どこまで完璧にやるべきですか?
A. 完璧を目指す作業ではありません。購入金額や購入回数の多い順に並べ、上から数十件を丁寧に確認すれば、区分を切るには十分です。残りは、案内を出したあとに同じ人へ2通届いたと分かった時点で直していけば構いません。むしろ注意したいのは、まとめすぎることで別人が1件になってしまうことです。他人の購入履歴をもとにした案内が届く事態を避けるため、迷ったらまとめない、を基準にしてください。

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